『男はつらいよ』

4.5
映画 男はつらいよ 日本映画
画像はイメージ

山田洋次の職人技が冴える、この凝縮感がたまらない!
渥美清の運命を決定づけた第1作

 1969年松竹 監督 山田洋次
「寅さんが20年ぶりに、故郷柴又に帰ってくる。歓迎ムードも束の間、寅は妹さくらの縁談をぶちこわし、また旅の人となる。奈良で旅行中の御前様とその娘・坪内冬子(光本幸子)と再会。幼なじみゆえ、気さくな冬子に恋をした寅さんは、帰郷してからも冬子のもとへ日参する。一方、裏の印刷工場につとめる諏訪博は、さくらへ想いを寄せていた・・」(松竹シネマクラシックス)
「前年に連続TVドラマとしてフジテレビで放映されるも、最終回に寅さんがハブに噛まれて死んでしまうというエピソードに視聴者から抗議が殺到し、寅さんを甦らせるべく本作が誕生したという。」(松竹HPより)
 本作が今でも語り継がれる作品であるのは、日本を代表する大ヒット映画シリーズの記念すべき第1作ということもあろうが、
1,寅さんとさくらの再会
2,さくらの縁談と博との恋愛・結婚
3,寅さんのマドンナへの片想いとその破談
を90分余りの、映画としては決して長くない時間にエンタメ性、クオリティを保ちつつ凝縮できたことに尽きる、というのが私見。脚本は山田洋次と森崎東の共同。後年の監督作の歯切れの良さから推察するに、全体の構造は森崎のアイデアによるものか、とこれは確証のない妄想に過ぎないが。しかもセリフで多くを語らせず、役者の演技と間、余韻でしっかり伝える手腕は監督の力であり、演技巧者を揃えた座組みにある。
 病後を逆手に取った「丈夫で長持ち」をキャッチフレーズに喜劇界を席巻しつつあった壮年期の渥美清はそのコメディセンスを遺憾無く発揮するが、特に上野駅の懐かしくもどこかうら淋しい食堂でラーメンをかき込む(「ラーメン」なのに「かき込む」が相応しい)その、香具師として生きざるを得ない自分の性(サガ)と向き合った瞬間の絶妙なペーソス極まれりの演技は賞賛に値する。
 さくらはテレビ版の長山藍子から映画(松竹)ということからか、倍賞千恵子にバトンタッチ。まさに下町の太陽だ。「男はつらいよ」は「寅とさくらの成就するはずのない絶望的な恋愛物語」と私は愚考するが、(兄に対する情愛の深さが、生き別れ期間が長かったとはいえいつも過剰。さくらを超える女性がなかなか現れないから兄はいつまで経っても結婚できない・・とキリがないのでこの辺はまた改めて。)この当時の長山藍子だと艶めかしさが出過ぎて、その関係性が仄暗い背景となってしまうが、倍賞千恵子であれば、太陽の如くカラッと、ときに大海原の如く全てを包み込むかのように、優しく、穏やかに兄を慕う妹を演じることができると踏んだとしか思えない。まさにキャスティングの妙を痛感。
 おいちゃんは森川信。特に渥美清との丁々発止の掛け合いの間合いが絶妙。本作のテンポ感に対する貢献大で、出ているだけで「画」が締まるのが不思議、一級品の芸で魅せる。おばちゃんは三崎千恵子。後年は少し洗練されてしまったが、この頃はいかにも「場末の」下町の様子(扮装・口調)のおばちゃんだ。
 ドラマの二番煎じと見做されたくない、という監督の意気込みが画面全体から伝わってくる。力作であり、言わずもがなだが、日本を代表する映画作品のひとつであることに疑う余地はない。(星4.5)

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