『吶喊』

映画 吶喊 日本映画
写真はイメージ

中期「岡本喜八ワールド」の佐藤允ロス

 とっかんと読むそうだ。(辞書には「突撃に移る前に、士気を高めるために、指揮者の合図に応じて声を大きく張り上げること。その叫び声。」とある。)1975年岡本喜八監督ATG作品。幕末の官軍に追い詰められた仙台藩の武士と寄せ集めの部隊「カラス組」の奮闘を描く。
 岡本監督の映画の特に初期作に顕著な、無駄を省いたスピーディな展開は健在。独特のリズムのようなものがあり、あれよあれよと引き込まれ時間が経つのも忘れるくらい楽しめるエンターテイメントの凝縮作として継承された側面はある。ただこのころになると(おそらく「肉弾」あたりから)少々イデオロギーというか自分が生きてきた歴史、端的に言えば日本の戦争との関わり方といったことに関して自らが伝えなければいけない使命感みたいなものが前面に押し出されすぎて、「独立愚連隊」や「暗黒街シリーズ」を期待する観客としては正直ちょっと疲れる。脳内デトックスしたくなる感じ。本作もその面が散見するも、後半の畳み掛けには、この監督の真骨頂を見た。
 主演は伊藤敏孝。農民や訳あり者などの即成部隊「カラス組」の一員。初見の人だがこの時20代なかば、wikiによると美空ひばりの「べらんめえ芸者」がデビューとあるので子役出身、どうも主役はこの作品のみの様子。短躯な容姿で直情的な役柄を好演。短躯でガニ股、すばしっこい動きと細めの目、その顔面はこの時代の人気役者、佐藤蛾次郎に似ていなくも無い。しかしながらアクの抜けた佐藤蛾次郎のような印象で、演技は申し分なく生き生きと演じられていたが、そのアクが抜けた=個性の減退は、役者としてのアイデンティティ(=主役という意味での)に関わるポイントと思わざるをえない。この主人公千太が時々発する「ちっくしょー」は「独立愚連隊」等々の岡本監督のミューズ、佐藤允を彷彿。本作は70年代に再興された「独立愚連隊」と確かに見えなくも無い。とは言え安保も終わり高度経済成長もひと段落、シラケ世代のこの時期に、あの時代だから成立したと思われる「独立愚連隊」の再生はちと厳しいか。失礼ながらアクの抜き後の伊藤敏孝は佐藤允が伴う個性というか「スター性」とも言い換えることができる何かが足りないと感じざるをえない。後期岡本喜八監督映画作品に佐藤允が出演することは無かったが、それが「何かが違う」感を醸成してしまった気がする。
 本作の収穫のひとつは、その恋人?役の千波恵美子という女優さん、新藤兼人監督の作品に出てきそうな純粋で素朴な田舎娘はハマリ役で「運命の人」を熱演されるも詳細不明。同時代を生きないとそうした出会いはなかなか無いかもしれないが、時々こうしたこともあるのは嬉しい限り。高橋悦史はドンピシャの役。自分の意志を曲げず正義を貫く系をやらせると説得力が横溢。一見ゴリラ顔(失礼、最初見た子供は泣き出す?)で強面といえばそんな感じもするが、その目尻、低音のバリトン声から人柄が偲ばれるのは演技力の賜物。老女に扮した坂本九の語り部が不思議な味わい。(星3.5)



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