天知茂×三原葉子の安定感 正義の味方 石井輝男版ダーティな水戸黄門?
石井輝男ワールドふたたび。1960年、新東宝。
「ある男の依頼を受け、神戸税関長を殺害した衆木。だが警察への密告という裏切りを受けた彼は、男を殺すべく踊り子のエミを人質に神戸に向かう。一方、エミの恋人・真山もエミが応募した新日本芸能社と売春組織・黄線地帯のつながりを突き止め神戸に向かう。」(U-NEXT HP)衆木役に天知茂、エミ:三原葉子、真山(新聞記者):吉田輝雄。監督はもちろん石井輝男。
本作でも天知茂の存在感が強烈だ。刑務所で生まれ孤児院へという凄まじい出自を持ち、小さい頃から虐げられて育った反骨の塊のような男、衆木。結果的に騙されて善良な税関長を殺すことになったことに強い怒りを覚え、自分を騙したボス(大友純)に対する復讐を誓う。とストリーだけ追うとかなり強引な感じもするが、狂気が見え隠れする本役を天知茂が演じるとうまく消化され違和感なく受け止められるから不思議だ。
衆木とエミが身を隠す神戸の街「カスバ」。セットと思われるが、外国船の出入りする神戸に相応しい、異国情緒漂う場末の入り組んだ猥雑な酒場街の雰囲気。街の外観だけでなく、酒場やホテルの内装もリアルで外国映画のよう。(美術:宮沢計次)ここを根城にする人たちも個性的で、その佇まいも目をひく。宿屋の女主人(「東海道四谷怪談」の若杉嘉津子!)やヨーモク売りの女(小野彰子)や、最後は手に掛けられてしまう組織に売られてきた黒人女性(スーザン・ケネディ。そのラスト、迫り来る重機のバゲットに怯えるショットは石井監督の真骨頂。) など、みな地を這いながら生きているかのよう。
三原葉子は今回も「ビッチな京マチ子」感爆裂でイキイキと大活躍。吉田輝雄は、恐らくこの方本来の持ち味であろう生真面目でまっすぐな正義感を背負った新聞記者役がハマっている。(オネエ系のビルの管理人に言い寄られるシーンは本当に嫌そうで可笑しかった。)
フラメンコギターのBGM(音楽:渡辺宙明。2025年は生誕100年!)はここぞの見せ場でクレッシェンドして場を盛り上げる。ボス二人(実は大ボスもいた)を追い詰めた、曲がったことが大嫌いな勧善懲悪の申し子となった衆木が放つ最後の澱みない啖呵にスカッと。(後年の「明智小五郎」を彷彿。)しかし本当の「悪」にはなり切れなかった衆木の葛藤を抱えたラストは無常感。石井輝男、新東宝での最後の徒花とは言わせまい。(星3.5)

