『東海道四谷怪談』(1959年)

日本映画
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予算は知恵で賄う まさにチームワークの結晶!世界に誇る中川信夫の代表作

 「浪人の民谷伊右衛門(天知茂)は恋人・お岩(若杉嘉津子)の父親を秘密裏に斬殺して彼女と江戸へ向かうが、やがて武家の娘に見初められ、邪魔になったお岩を始末しようとする。鶴屋南北の歌舞伎狂言をベースに、寸分の狂いもないスタッフワークによる絢爛たる様式美と人間の業にまつわる考察を突きつめた中川の怪談映画の集大成にして日本映画史に残る恐怖映画の金字塔。」(国立映画アーカイブHP)
 1959年新東宝 監督 中川信夫
 言わずと知れたストーリーながら、緊張感は最後まで途切れることがない。まさに監督はじめスタッフ、演者の才能と努力と知恵とチームワークの結晶だ。
 伊右衛門役の天知茂、本作の企画が上がった際、伊右衛門役に自薦するも、会社はすでに新東宝の当時の幹部 嵐寛寿郎に決めていたので、伊右衛門を中間の直助役を薦められ躊躇していたら、社内の政治的事情で伊右衛門役が回ってきた、という因縁の役。結果は大正解で自身の代表作となった。話の進展につれ性悪から直助に焚き付けられ極悪に変遷するが、人間としての弱さ、脆さ、虚無感を含有した表現も絶妙、重層的な伊右衛門像を作り上げた。
 その直助役は江見俊太郎。ご本人も「出演作で一本上げろと言われたらこの作品」というほどでまさにハマり役。硬質で少々甲高い声のトーン、優男の無表情で伊右衛門を焚き付けネチネチと追い詰める粘着質で爬虫類的な執念深さは一世一代の名演技。
 お岩役の若杉嘉津子。当時の新東宝を代表する女優のひとり。当時すでに結婚されて出産も経験(結婚して大映を「干されて移籍した」と本人の弁)、少し「とう」がたったやつれた雰囲気が悲劇のヒロインに似つかわしい。
 そして中川監督の映像表現。特に長回しを多用した緊張感の持続、終盤の伊右衛門狂乱の場における千変万化の場面転換の見事さ。巳年のお岩の「守り神」蛇に付き纏われるシーンの連続は異様な不気味さを醸し出す。役者の所作ひとつひとつが歌舞伎さながらに絵になる構図。吸い込まれるような滝の迫力、俯瞰、ローアングル、垂直移動とカメラワークを駆使した画の力。(撮影 西本正)
 美術担当は中川監督の盟友黒沢治安。最小限の小道具、簡素だが象徴的なオブジェを配した目を惹くセットでおどろおどろしい場面を作り上げ、幽玄な趣すら感じる物語世界へ誘う手腕は見事。はなから不気味な伊右衛門の住まい、お岩と宅悦(中川作品常連の大友純がこちらも一世一代の秀逸な演技で魅せる!)隠亡堀の造作なども印象深い。
 吝嗇家の大蔵貢社長の元、低予算の映画製作を余儀なくされた新東宝はこの2年後に倒産。そうした状況下で歴史に残る作品を作り上げていただいた全ての方々に賛辞を送りたい。
歌舞伎の音曲と鳴り物を洋風にアレンジした音楽(渡辺宙明)、話は闇夜に転変するが、絶妙な光と影のコントラスト、暗闇に浮かぶ人影にフォーカスした照明(折茂重男。セットの作り込みの予算削減?)も忘れ難い。
 水中での「戸板返し」や「天井貼り付け」にも耐えた若杉嘉津子に監督は最後のご褒美「ラストは綺麗にとってやるから」と投げかけた言葉には監督の人柄が偲ばれる。伊右衛門にもラスト改悛の言葉のシーンを見せ場としたのは、中川監督の生けるすべての人間に対する慈悲深さのあらわれ。
 中川組は撮影を終えた後はスタッフで(特には俳優も交わり)宴会を開き楽しく盛り上がっていたという。そうした「飲みニケーション」の成果はこの作品から迸る熱量の高さ、揺るぎない直進性からも垣間見れるのである。
(星4.8)

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