『酔っぱらい天国』

日本映画
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エガちゃん化する笠智衆!
小津作品ではあり得ない、変人的ポテンシャルを引き出した、渋谷実監督に脱帽

 1962年松竹 監督 渋谷実
「松山善三のオリジナル・シナリオを渋谷実が監督した社会風刺ドラマ。」(松竹HP)
笠智衆が変わり者の数学者を演じた渋谷実:監督、松山善三:脚本による父娘もの『好人好日』とそれに先立つ『もず』からほぼ同一スタッフによる第3弾といったところ。今回は、酒好きな父と息子(笠智衆・石浜朗)を中心としたライトコメディの趣。
 笠智衆は何を演じても「笠智衆を演じる笠智衆」などと言われるが、渋谷監督は『好人好日』と本作でコメディアン、というより、その特異で摩訶不思議な人間性を引き出すのに成功した。
 普段は昔気質の真面目なサラリーマンだが、お酒を飲んでしまうと「たが」が一気に外れ豹変、猥歌を歌い、動作も今風にわかりやすく言えば「江頭2:50」を彷彿されるものに。この可笑しみは、「素」なのか「演技」によるものなのか判別はできかねるが、この「変人性」を持った主人公が作品全体を支配し、他の登場人物も一癖二癖ありそうだが、それを凌駕する圧倒的な存在感とコントラスを放つ。
 惜しむらくは脚本か。前半の酒飲み親子のエピソードの連続は息子役石浜朗の天賦の賜物その天衣無縫な感じがなんともほのぼのさせて、変わり者の父との良好な親子関係が垣間見え遅滞なく展開するが、後半の起承転結の「転」から先が少々雑だ。息子の元恋人(倍賞千恵子)に新恋人のプロ野球選手(津川雅彦)が出来てからの元カレの父(笠智衆)に対する意趣返しのような行為は藪から棒で、生真面目で誠実だった娘が何故?の部分の説得力がない。最後の結末のためにする行動と見えてしまう。また、津川に後年の演技力が備わっていれば、人気を笠に着る嫌味な「悪い奴ほどよく眠る」キャラが重層的に表現できたであろう。終盤の笠智衆のバーでの「見せ場」もカメラワークに意図が見えず消化不良。飲み仲間の「同類」三井弘次、「同類」になってしまう姪(岩崎加根子)とうだつのあがらない時計職人の夫(伴淳三郎)、曰くありげなバーの女給(有馬稲子)、一物もった監督(山村聰)など、芸達者を揃えるも、通り一遍な描写に終始した。いつもひとひねりある渋谷実作品としては、急拵え感が否めない。
 本作は「酒の上での過ちは免責対象」という当時の伝統的社会通念を前提としているので、ストーリ自体に現代の視点から見ると違和感が生じるのは致し方ない。
 息子が大切に育てた文鳥の死骸を叩きつけ、元恋人(倍賞千恵子)を追い詰める(=死んでしまったも同然と主人公は解釈する)ゴミ捨て場奥の「死の壁」はなんとも不気味で、人間の心の深淵部での闇を垣間見る。その闇からの解放の手段が主人公にとって「酒」であったのかと思い至るのである。
(星3.5)

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