ピュアさん江原真二郎と超絶ビジュ高嶺の花 佐久間良子の恋の行方は?
凝縮感と高揚感と多幸感
1960年東映。監督はこれがデビュー作となる後の喜劇の名手、瀬川昌治。「自動車ブームに乗って繁昌するぽんこつ屋に働く、ややのろまだが純情な青年と美人女子大学生との明るい笑いに溢れた恋愛合戦を軽妙なタッチで描いた青春喜劇の大傑作。」(映連データベース)青年(熊田勝利)は江原真二郎、女子大生(三津田和子)は佐久間良子。
題名になった「ぽんこつ」屋とは自動車解体業のこと。自動車の部品を解体し、そのパーツをそのまま売ったり再生したりする。「ぽんこつ」とはその作業の時の金槌やバールから発せられる金属音「ぽんぽん」「こつこつ」からきたものだとオープニングで説明される。なるほど。東京は本所堅川町のぽんこつ屋に勤める熊田青年のもと、卒論の資金集めのためお金が必要で、自宅(父は眼科医)の廃車寸前の自動車(ルノー!)を売りにきた女子大生と出会い、熊田は一目惚れ、さて二人の運命は?という話。熊田は和子からの依頼を聞いて「大学、へー卒論!」とびっくりした様子だが、1960年の女性の大学進学率は2.6%。驚くのも無理はない。
熊田(江原真二郎)が和子(佐久間良子)と出会うシーン。熊田が作業場で自動車のドア?をバールで剥がしたら、剥がした四角い枠の向こうに白いワンピースのフレアスカートの和子(佐久間良子)が現れる。周りはバラバラになった廃材や自動車の部品が転がっている、黒みがかった混沌の世界の中に突如現れた清楚なお嬢さん、それも超が付くほどの美人。ぼんこつ屋が急に華やかに明るくなる。女性にこれまで縁がなかった純朴な青年からしらたらキラキラ輝いて見えたことだろう。そりゃ一目惚れするわな、と観客も納得。(本作モノクロなので白がより引き立つ。それにしても佐久間良子の愛らしさ!)
江原真二郎は高知出身の戦災孤児で性格的にはおっとりした、しかし車の構造やメカニクスにはめっぽう強い青年役を好演。役柄の幅の広い人だが、今回のような真っ直ぐな役がしっくりくる。佐久間良子は行動力のある意志も気も強い女子大生、こちらもハマり役。
監督第1作が自動車工が主役とはさすが乗物好きの瀬川監督。あらすじは「お嬢さん乾杯」に似ていなくもないが、新藤兼人脚本(木下恵介監督)のそれとは別物、本作は阿川弘之の新聞小説が原作とのこと。シーンごとに展開する映像、カメラワーク、見せ方も凝っていて視覚的にも飽きさせない。監督の意気込みが伝わる。情熱が詰まっている。
熊田の部屋で、和子と親友の同級生(小林裕子:この方親友やライバルの「当て馬」的役柄が多くて毎度毎度ちょっと可哀想。)に熊田は自分の仕事への思いを語る。そこで語られた未来の話「太陽電池が原子力かガソリン以外の燃料で走る車」「電子頭脳のロボットが運転」「テレビは手帳くらいの大きさでポケットサイズに」「ラジオは腕時計くらいに小型化」。当時としては夢物語であったろうが、今となっては全て現実化してる! 65年後に暮らす身としては驚きでしかない。また「そうした進歩の波に飲まれたらぽんこつ屋はいつまで続くかわからない。そのため機械工学や電子工学を独学で勉強している。」とボーッとしているようで熊田、結構冷静だ。熊田は戦災孤児、子供の頃いじめられてたり騙されたりもしてきた。なので和子は、「だから機械が好きなのね。機械は間違うことがなく正確で人を騙したりしないから。」と熊田に寄り添うのだが、それに対し熊田「でも俺は人も信用している。機械を作るのは人間。その人間を信じていなければ機械を信じることはできない。」と。和子は大きく頷き、コップいっぱいの水を飲み干す。この時の和子の表情、穏やかな笑み。熊田に対する愛情が芽生えるいいシーンだ。
熊田の部屋には廃車から剥がしてきた「持ってると必ず良いことが起こるナンバプレート」が飾ってあるが、部屋を出る際に和子は勝手に持ち出したようだ。恋の成就を期待したのか。その後のシーンで友達とレストランで食事をするが、真っ先に化粧室に駆け込み、ワンピースの襟!からそのナンバープレートを取り出すときの和子(佐久間良子)の茶目っけときたら。熊田、和子と親友の三人で「後楽園ゆうえんち」でデート、親友をうまく「撒いた」後それぞれの思いの歯車が噛み合わず、結局何も起こらず帰ってしますシーン、いよいよ熊田がプロポーズしそうというとき和子がうまくアシストして車の中に誘い込む!シーン、それぞれ演技も演出も脚本(舟橋和郎)も実に自然で無理がない。熊田は優柔不断(に見える)で「押し」が弱く、愛情を受け止めたい和子にはそれがもどかしい。なので時々爆発する。二人の演技はそれぞれ「しそう」な感じを醸し出す。
凝縮された上演時間82分。得体の知れないマダム清川虹子のフレンチカンン!!、和子たちのが取材する警察課長の十朱久雄の狼狽、麻雀好きの和子の両親(山茶花究・沢村貞子)と医者仲間(小沢栄太郎・花沢徳衛)のくだけた大人たち、ケチだが結構面倒見の良い競馬好きの親方(上田吉二郎。珍しく善良な大人!)等々登場人物の言動はみな生き生きと活写され、若者たちに対して温かい視線を送る。信用できる人間、大人たちに囲まれている若者たちの未来は前途洋々だ。(和子の親友も友達の大学生と結婚し、熊田たちの結婚式には赤ちゃん連れで出席。よかった。)
時代劇でもギャングでも任侠でも実録物でもない、東映映画の掘り出し物。日本が高度経済成長へ突き進む端緒についた勢いのある時代だからこそ成立したとは冷め過ぎか。肩肘張らない人間讃歌。いい映画を観た。(星4.5)

