可憐な尾崎奈々、鮮烈な藤岡弘、ドライな仕上がり斎藤耕一作品
ある年代以上の人なら一度は聴いたことがある大ヒット曲「小さなスナック」の世界観を映画化したいわゆる「大ヒットあやかり歌謡映画」。1968年、松竹。監督はこの時期全盛期を迎えるGS(グループサウンズ)出演の歌謡映画を多く手がけていた斎藤耕一。表題曲を歌うGS、パープル・シャドーズも出演するが、話の中心は「小さなスナック」の歌詞同様、小さなスナックで出会った若い二人、大学生の昭(藤岡弘)と美容師の美樹(尾崎奈々)との恋模様。
ストーリーのツッコミどころはいろいろある。結末ありきの展開。愛し合う二人はなぜ結婚できないのか? 美樹は政略結婚? お金に困っている風でもなし。ただしその部分を差し引いても十分観応えある映画だ。
このスナックに集う昭の友人は レーサー(なぜかひと世代前の松竹の青春スター山田真二)やテレビタレント、俳優の卵、ダンサーと職業はさまざまでちょっと浮世離れした人たち。そうした人たちの生態を追うかのように話は進むので、(恐らく当時の普通の人ではあまり経験できない)この時代の最先端の風俗も垣間見える。俯瞰でグループを捉え、また手持ちカメラで画面が小刻みに揺れるドキュメンタリータッチのテイストになったかと思えば、ワイドショットで愛する二人、昭と美樹の動きを捉える、静と動のバリエーション。恋を謳歌する二人のシーンに突然海に浮かぶ死んだ魚が挟み込まれる不気味さ。(撮影:竹村博)
昭と美樹のシーンで多用されるクラシックギターが奏でるメランコリックなバラード風テーマもその時二人は楽しいはずなのに、将来を暗示するかのようにいつも寂しげだ。(音楽:大森盛太郎)スナックで演奏される特別出演のビレッジ・シンガーズの歌は美樹を待つ昭の心に沁みたようだ。これがスナックというもの、と声を大にして言いたい! ことほど左様に音楽が本作には大きく影響している。歌謡映画として一ミリたりともぶれていない。
本人役で出演の若き日のジュディ・オング、昭に旅の思い出や将来の夢を語るシーン、18歳(実年齢)の今思うことをリアルに自分の言葉で語っているよう。アドリブでは? まさに実験的セミドキュメンタリー、ノンフィクション。他にも本人役の出演者がいるので、虚実ないまぜの形相。
この数年後には結婚、引退してしまう、美樹を演じる細身で長身、可憐な尾崎奈々の寂しく儚げな笑顔が印象的。好きな娘の前では多弁になるが、出張りすぎてしまう不器用な大学生 昭を、これがあの藤岡弘かと見紛うほど新鮮にかつ「らしく」実に実にナイーヴに演じ切る。昭は何も知らずにラストを迎える。東京の朝、誰もいない街路樹の歩道を楽しそうに駆け抜ける昭が切ない。バックに流れるのはもちろん「小さなスナック」。人生の交差点。(星3.5)

