配役で魅せる!とくに芦川いづみに注目
日活時代を駆け抜けた、川島雄三の隠れた名作
川島雄三監督は松竹出身。1954年に日活が再興した時に多くの俳優、スタッフが移籍してきだが、川島監督もそのひとり。松竹の同僚で同い年の西河克己監督は多くの助監督や若手の監督を日活にリクルートした、けれども川島雄三は自主的に移籍したと語っていたように記憶する。本作完成後「洲崎パラダイス赤信号」「幕末太陽傳」と名作を残し日活を飛び出し映画会社を渡り歩くことになるが、本作から7年後その生涯はあっけなく幕引きとなる。
原作は当時大人気の流行作家大佛次郎の新聞小説。脚本は川島監督と当時助監督の今村昌平の共作。映画では本筋に関係ない部分は端折り、父・兄・妹の家族関係を中心とした個々人の心の移ろいに集約させて引き締まった映像作品となった。
1956年日活 監督 川島雄三
「エゴイスティックな現代の冷たい世界の中、真の幸福は果して何処にあるのだろう。日活自慢の豪華文芸大作。」(日活HP)
画家から苦労して実業界に転身し成功した社長村上春樹(って今にしてはすごい名前だ。森雅之)と苦労知らずのボンボン優男息子圭吉(三橋達也)、体が少し不自由なピュアな妹珠子(芦川いづみ)。圭吉の愛人の戦争未亡人久美子(新珠三千代)、圭吉に心を寄せるシャンソン歌手ミキ子(北原三枝)、春樹の苦労時代の下宿の娘るい子(左幸子)が主な配役。
キャスティングは非の打ちどころがない。特に妹芦川いづみ。芯の強い一途さ、後半の父に対する告白は胸を打つ。内に秘めた感情の起伏の激しさを大仰に構えず表情と最小限の所作で見事に表現した演技とでも言おうか。三橋達也は川島監督の次作でも新珠三千代と共演するが、その「洲崎パラダイス赤信号」の口だけ達者で不甲斐ない男にも通じる自己中優男を好演。北原三枝はキャリア半ばで裕次郎と結婚引退してしまったので出演作はあまり多くないが、男に対してクールで上目遣い、声のトーンも抑え気味、シャンソン歌手という少々バタくさい戦後派アプレを造形。川島監督同様松竹から日活に移籍し鮮やかに花開いた代表作と言えるのでは。日陰の女、新珠三千代は万人が期待する所与の類型だが、この儚さは誰でも演じられるものではなかろう。不安が付き纏い揺れる若者たちの感情を父として、人生の先輩として受け止め、演技の上でもさまざまなパトスの受けに回る色恋封印の老け造り森雅之がこの役でなければ本作のバランスは崩れてしまったであろう。若き森英恵のビビットでスタイリッシュな衣装。モノクロなのでモノトーンに見えてしまうが、それを見越したデザイン。
圭吉、久美子、ミキ子の恋の鞘当て。ミキ子とそのマネージャー都築(二本柳寛)を加えた圭吉との心情を探り合う大人の会話劇は絶妙。自己中グループ(三橋・北原・二本柳)と人の痛みわかる系グループ(森・芦川・左)の対比、「風船はどっちに動くか」はどちらのグループでも運不運、微妙な匙加減によるものという現実。悲しい終焉を迎えそうなラストは一転。(盆踊りの芦川いづみ可愛すぎ。)三橋達也がどっちのグループに加盟できるのか? 人によって見方は違う、それが映画だ面白い。余韻を楽しもう。
(星4.0)

