天知茂との名コンビ 一度入ったら抜け出せない、中川信夫の世界観を堪能
新東宝では怪談怪奇映画でヒットを量産していた、中川信夫監督。本作は中川×天知茂コンビの「憲兵と幽霊」と名作「東海道四谷怪談」、怪作「地獄」の間に挟まった、ノリに乗っていた時期のもの。それぞれ個性的な作品だが、この作品は文学青年だった監督が童心に帰っての少年探偵小説の趣向か。
1959年新東宝 監督 中川信夫
「東洋タイムスの記者・大木民夫が招かれた、婚約者・松村伊都子の誕生祝い。その夜、20年前に失踪した彼女の母・美和子が、昔のままの若さを保ったまま突然現れた。正気を取り戻した美和子は、捕らわれていた地下城と謎の男の存在について語り始める。」(U-NEXT HP)
一言で言えば本作はニンニクでも十字架でもなく、月を見ると豹変し狂気と化す吸血鬼をエキセントリックな演技で特殊メイクも効かせ緊張と緩和を自在に行き来した天知茂劇場である。タイトルは「女性の吸血鬼」の意味でなく、「女の血を吸う吸血鬼」の意味とかなり強引。(社長自ら認める狡い新東宝の戦略にしてやられた人多数であろう。)天地吸血鬼に血を吸われて若さが維持された美和子(三原葉子)は石井輝男監督のラインシリーズの奔放なヒロインとは打って変わって、宿痾を背負った天草四郎の末裔を肉体も駆使し少々大仰だが切々と演じる。美和子の娘(デビュー4年目の若い池内淳子)の相手役など主要な脇役が少々弱めなのが難。アングラ舞踏のような海坊主(晴海勇三)など、吸血鬼の仲間は不思議キャラだらけ。中でも小人俳優(和久井勉)が場面場面で展開に絡み貢献大だが、今ではこのテーマではまず実現不可能か。
筋書きの外枠は、吸血鬼と天草四郎伝説を無理矢理こじつけたよう話。しかしながら誠に身勝手な吸血鬼に思わず同情してしまうのは、この吸血鬼に悲哀、突き詰めればこうせざるを得ない「業」のようなものを感じるためか。中川作品に通底する監督の人に対する情の深さを垣間見る。
吸血鬼の棲む迷路のような地下城は天地吸血鬼に似合ったおどろおどろしい摩訶不思議な空間で見応えあり。(美術は名コンビ黒沢治安)「長回し」を得意とした中川監督は本作でも多用。クローズアップや足元だけを追う場面など、何か起こりそうな緊張感の持続、増幅に効果をもたらした。
(星3.5)

