内田吐夢監督にしてやられる!
満を持しての戦後復帰第1作にふさわしい「THE時代劇」
最後まで目を離さないで見届けよう
「戦後、映画界から姿を消していた巨匠・内田吐夢監督が13年ぶりにメガホンをとった話題作。まさに復帰作に相応しく、片岡千恵蔵を主演に迎え、内田吐夢の盟友・溝口健二・小津安二郎・清水宏・伊藤大輔ら錚々たる面々が企画協力に名を連ねた異色時代劇。(中略)、井上金太郎監督の「道中悲記」をもとに、一人の武士が封建的な世相に矛盾を感じながら、真実に目覚めていく姿を、東海道中に繰り広げられる群像劇の中に描いた秀作。」(東映ビデオHP)
1955年東映 監督 内田吐夢
内田吐夢監督が「戦後、映画界から姿を消していた」のは戦後中国に駐留していたから。中国の映画界再興に尽力したとも。いずれにせよ戦後復員しての第1作が本作。同世代の今や名監督となった面々の支援を受け、これまた盟友井上金太郎監督(公開の前年に亡くなってしまう)の旧作のリメークで、旧作や井上監督とも縁の深い役者も起用し満を持しての再出発を図れたことは、内田監督にとって幸運であったし、その実力を如何なく発揮することとなる。
江戸に向かう東海道中同じうする人たちは個性的な面々、左手には常に富士山が見えるあたり。若殿様(島田照夫)と槍持ち(奴さん:片岡千恵蔵)と中間(加東大介)、「いなせ」な小間物屋(加賀邦夫)、疑心暗鬼な中年男(月形龍之介)、曰くありげな老父と娘(吉田義夫・田代百合子)、巡礼装束の男(進藤英太郎)、旅芸人親子(喜多川千鶴と千恵蔵の実娘 植木千恵)の道中記の趣だが、孤児(千恵蔵の実子 植木基晴)を含めこのキャスティングは非の打ち所がない。それぞれの登場人物が生ける「その人」を演じている。脚本(脚色:八尋不二・民門敏雄/脚本:三村伸太郎)の勝利でもあるが、まさに任に適したキャスティング。
前半は人物紹介を交え比較的淡々と進むが、雨の兆候「笠富士」が見えてから、天候だけでなく話の展開も「風雲急を告げる」こととなる。
とは言え出来した2つの懸案はひと段落。(見栄を切る進藤英太郎の立ち姿、「ある決断」をした月形龍之介の表情、いずれも秀逸。)
ただ、最後まで何が起こるかわからない。兆候はあった。「家来の手柄が主人の手柄。筋の通らないことが多い」と嘆く心の優しい若殿様。武士社会の非情を憂い、道中で出会った町人たちの心の通い合いを羨む。酒乱の気があるのが唯一のきずなのだが。嗚呼。
内田吐夢監督、この後も時代劇を撮り続け、名作『宮本武蔵』4部作などを送り出していくわけだが、この町人・農民(庶民)に対比しての武士社会に対する嫌悪感は終生持ち続けていたようだ。
最後まで目を離さないでほしい。タイトルを振り返ろう。千恵蔵の横溢した感情の矛先はどこにあったのか。酒樽、中庭が効く。
オープニングの軽快なジョージ・ガーシュイン風のBGMはエンディングでも繰り返されるが、御詠歌調のハミングが加わる。奴さんひとりで街道を行かねばならぬ無念を観客も共有して終わる。
(星4.5)

