『隠し砦の三悪人』

日本映画
画像はイメージ

黒澤×三船コンビによる、娯楽活劇の金字塔

1958年東宝 監督 黒澤明
 「戦国の乱世、秋月家は隣国の山名家と戦って敗れる。秋月家の侍大将・真壁六郎太(三船敏郎)は、世継ぎの姫君・雪姫(上原美佐)を擁して隠し砦にこもる。六郎太はお家再興のための軍資金を運び出す脱出計画を練るが、敵地を横断突破するより他に道はない。六郎太、雪姫ら一行は奇策に満ちた敵中突破作戦を開始する・・・・・・。」(日本映画データベースHP)
 磐石の黒澤×三船コンビによる久々の娯楽エンターテイメント時代劇。
 まずは脚本。この頃の黒澤映画の台本制作は合議制。作品に応じて変更があるが概ね4名の脚本家が1作品を担当、ひとりが途中まで書き上げ、途中から4名で詰めていく。今回は菊島隆三がまず書き、そこに小国英雄、橋本忍、黒澤明が合流する。真壁・三船と雪姫・上原に、百姓出の雑兵ふたり(千秋実・藤原釜足)が巡り巡って出会い主従を共にすることになるかの前段から、いかに敵の目を掻い潜り逃げ切れるかの後半が、全くの遅滞も論理的破綻もなく、(もちろん「運命のいたずら」はあるものの)自然に進行していくのはその合議制による頭脳の結晶のなせる技。八方塞がりとそれを克服するプロセスがひとつ消えまたひとつ生まれるプロットの連続は、まさにロールプレイングゲームでクリアを重ね勝者を目指すかのようだ。そうしたエンターテイメントとしての面白さに満ちている。
 この脚本をより豊かにさせているのは、演技陣の奮闘によるところ大。雄々しく知恵ものの侍大将はまさに油の乗ったこの時期の三船敏郎に相応しく、上原美佐の雪姫は甲高い声音で生硬な印象もなくはないが、向こう気の強い浮世離れしたお姫様には遜色ない。また、「スターウォーズ」のR2-D2とC-3POのモデルになったとされる雑兵コンビ(千秋実・藤原釜足)は、喧嘩ばかりの、往生際の悪い、欲深い、業の象徴のようで滑稽ではあるが身につまされる存在を闊達に演じ切る。このふたりによるラストシーンは黒澤明のヒューマニズムを垣間見るが、なにその黒澤とてそのうちまた喧嘩するさ、と観客同様思っているであろう。黒澤作品に久々出演の藤田進は『虎の尾を踏む男たち』の冨樫を彷彿させるこの人ならではのキャスティングでなぜか胸を撫で下ろす。すぐ横を疾走する馬が通り過ぎ騎上から射抜かれる鮮烈な印象を残す落武者の加藤武(お守りを懐に臨んだという)、憎々しい見張り役の三井弘次、してやられたときの表情がなんとも可笑しい小川虎之助、「おしい」上田吉二郎とそれぞれピタッとハマる贅沢で豪華な布陣。
 本作は黒澤明にとって初となるワイドスコープによる作品。左右いっぱいに対象物を配し、バランスを意識した構図は歌舞伎の見栄のようにきまる。丘の上を颯爽と行き交う騎馬群、泥の塊のような捕虜の集団の大移動、手綱を離した三船が刀を構え騎上から敵を追い騎上から仕留めるシーンのスピード感と疾走感、爆発的に狂喜乱舞する土着的な香りのする地響きダイナミックな火祭り、隠し砦の不気味な白い地肌と人間の黒のコントラスト・・。均整の取れた脚本と見事な配役に加え、娯楽活劇を追求し尽くしたこうした映像には感嘆しきり。
 セットの意匠は細かい部分まで目が行き届き抜け目ない。全てにおいて黒澤こだわりぬいた結果、撮影期間が予定より伸び、制作費も予算を超えたため東宝サイドからは大目玉、本作が黒澤プロ立ち上げのきっかけとなったという。
 「日本人の男性の根源から生み出されている」「黒沢の知的なはたらきと、三船の肉体的なはたらき」(武田泰淳『キネマ旬報別冊第十号』。この言葉には黒澤:卓越した芸術的センス、三船:いわゆる「男の色気」を含有した人間的魅力、というフレーズも付与したい。)が結実した唯一無二の作品。
(星4.5)

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