『エノケンの青春醉虎傳』

映画 エノケンの青春醉虎傳 日本映画
画像はイメージ

トーキーの申し子、エノケン時代の幕開け、本格主演第1作

1934年 P.C.L 監督 山本嘉次郎
「気楽な大学生活を満喫するエノモト(榎本)はやがて卒業を迎えるが…。山本嘉次郎のP.C.L.入社第1作で、P.C.L.が浅草で人気を博していた榎本健一の一座と提携を結んだ初めての作品。音楽映画の夢を語り合ったエノケンと「ミュージカルを撮るということで、喜んでP.C.L.に馳せ参じた」と回想する山本は、軽演劇で培ったエノケンの持ち味と身体能力を活かした数々の場面を演出した。本作を皮切りに山本による「エノケン映画」は昭和10年代のP.C.L.(後に東宝)の看板となる。」(国立映画HP)
 浅草の人気者、エノケンのお披露目興行の趣向だ。歌あり踊りありアクションあり。無声映画からトーキーへの移行期、トーキーの映画制作会社 P.C.L.にはうってつけ。新幹線のない時代、わざわざ浅草に行かずともこの噂のエンターテイナーと見えることができる映画という仕掛けの素晴らしさ。
 なので筋書きよりもそのエノケンの芸をたっぷり堪能できるよう、幾つも見せ場を作り話は畳み掛けるように進行する。
 P.C.L後の東宝初期の屋台骨を支えたコメディから文芸ものまで幅広くまさに「対応」できた職人監督 山本嘉次郎(今となっては黒澤明の師匠として語られることが多くなってしまった。)の白眉は、ラストの乱闘シーン。エノケンは軽い身のこなしでアクロバティックなアクションをキメまくるが、現在観ても見応えがあるこのシーン、それまでの賑々しいBGMは途切れいきなりの無音。厳密に言えば、椅子を床に叩きつけたり、照明が割れたり、殴られたり地面に押し倒されたりの音は聞こえるし、パンチを受けた時の「うっ」といた唸り声や言葉にならないような罵声が聞こえるも、そのリアルな乱闘の音だけを聴かせるのは監督のセンス。無声映画へのオマージュか。トーキーの可能性を追求した意欲とその実践かとも。
 かつてはエノケンのライバルと目された二村定一は添え物的な役柄だが、エノケン一座内の力関係もあろう、やむなしか。後半でハリのあるバリトン声の歌唱シーンが唯一の見せ場で少々寂しい。
 明るく陽気で元気。オープニングの前奏曲?は楽器がテンポに追いつかないくらい早くて勢いがある。そうした飛ぶ鳥を落とす勢いの時代のエノケンワールドが堪能できる一編。(星3.5)

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