『ザ・スパイダースのバリ島珍道中』

映画 ザ・スパイダースのバリ島珍道中 日本映画
写真はイメージ

 追憶の彼方 小川ひろみとアイドルと言えばやっぱり西河克己

 1968年日活。監督は吉永小百合、山口百恵から小泉今日子まで、特に女性のアイドル映画を数多く手がけた名手西河克己​​。ザ・スパイダースも当時女性から人気を誇ったGS(グループサウンズ)でいわばアイドル。内容は「ザ・スパイダースのメンバーは世界演奏旅行を前に多忙な日々を送っていた。一方そんな彼らを利用してひと儲けしようとする密輸が・・・。ザ・スパイダースがなんとバリ島に上陸。南海の楽園を舞台に、歌って踊って大活躍!プルトニウムまで飛び出す、何でもありのドタバタコメディ!」(日活HP)以上でも以下でもあらず。スプラスティックコメディ、と言えなくもないが、HPがおっしゃる通り「ドタバタ」に終始し、西河監督の職人的力技でまとめ上げた感じだ。タイトルもビング・クロスビー、ボブ・ホープの名作喜劇映画「バリ島珍道中」の「頂き」だし。
 日本で開発されたプルトニウムの密輸を図る悪党が、スパイバースが演奏の時に使うアンプ(当時は構造が繊細だったためか、振動を避けるように慎重に運搬されたようだ。今でもそうなのだろうか。プルト然り。)に目をつけ、香港への演奏旅行に運ばれるアンプの中にプルトニウム入りの箱を隠し入れ、香港までの密輸を企てたが、香港でその箱を持ち出そうとする殺し屋が箱を奪い損ね、殺し屋に命を狙われていると思い込んだザ・スパイダース​​がインドネシアのジャカルタからバリ島まで逃げまくるのだが、ストーリの組み立ても乱暴で、メリハリ、緩急なく話が進む。メンバーの堺正章や井上順はこの後俳優として活躍するが、この頃はまだ未完成な感じで、振り切れていない。他のメンバーはセリフ棒読みだし。​​演技の素人なので致し方なしだが。
 一方で脇役の個性、演技力は光るものあり。メンバーが香港で出会う芸達者な楠トシ江と平凡太郎(シメシメの表情!)の強かな夫婦もそう。またメンバーを追いかけ続ける殺し屋のふたりは、白いスーツ、パナマ帽でイタリアマフィア風の銃の名手、内田良平と黒いコスチュームで中国マフィア風の短刀の名手、高品格​​のコンビ。白黒ツートンのジャケット・スーツはキメッキメでスタイリッシュ!なのにちょっとぬけている。高品格の殺し屋はバリ島でケチャックダンスに紛れた堺正章の命を木陰から狙うのだが、ケチャックダンスのリズムに思わず乗ってしまい短刀を投げ損ねるのがなんとも可笑しい。(ふたりの殺し屋のボス?の杉本エマは当時18歳!!驚愕!)このエピソードもそうだが、やはり本作はタイトルにもなったバリ島到着からの後半部分に見どころがある。​​
 個人的な話になるが、バリ島は昨年末ちょうど旅行で訪れていて、またこれまでも何度か旅行しているので、それなりに思い入れのある土地。昨今環境破壊が問題になっているようだが、この映画の頃の沿道の家​​並みは鉄筋建が増えた現在に比べて木造が多く緑もより深く見える。街中であっても「色味」が少し違う気がした。頭の上にカゴを乗せたおばさんもたーくさん登場したが、今はほとんどお目にかからないのでは? 歩いている現地の人たちも多かったが、今は車文化、歩いている人の姿は地方へ行ってもあまり見かけなくなったような気が。「島の移動はこれだよ」と馬車が示されるシーンがあったが、その後バス→タクシー→グラブ・バイクと観光客の足も変遷を辿っている訳で、なんとも感慨深い。「バリ島は夢の島」というセリフが劇中にあったが、1ドル360円時代の当時の観客にとっては夢の外国、香港ージャカルターバリの風景が映し出される「兼高かおる世界の旅」的な観光映画としても堪能出来たのであろうか。現代の目で観ると返還前の香港、緑深きバリを捉えた記録映画としても鑑賞できる。
 メンバーが宿泊するのは海沿いの鉄筋建のプールもついたリゾートホテル。こののんびりした時代のバリに似つかわしくない印象だが、徐々に開発の手が伸びていたんでしょうか。このホテルに到着し、部屋に運ばれたアンプの中からひょんなことからメンバーのかまやつひろし(若い!)​​がプルトニウムを見つけて、皆で相談してお寺の境内の隅に埋めてしまおうということになるのだが、おいおい。おまけにその後の別のシーンではその境内でコンサートをしている。おいおいおい。映像を観るとこのお寺はアグン山麓の観光名所ブサキ寺院のよう。映画では石段をのぼって境内に向かっているが、現在は信徒以外は境内に入れないので観光客は建物の外周から見学する。ある意味貴重な映像だ。
 
 このお寺でメンバーが出会うのが、日本から民族学の研究のためにフィールドワークして住んでいるという日本人の若い女性、このバリ編のヒロインを演じる小川ひろみ​​という女優さん。この数年後に結婚して引退されたようで出演作も少ないが、そのまま続けられていたら、スターの道を邁進されていたであろう「清楚」「可憐」という言葉がしっくりくる独特の雰囲気をお持ちであった。その小川ひろみが帰国するメンバーと最後の別れとなるシーン。ザ・スパイダース​​はブサキ寺院でお別れコンサートを開催し本作の主題歌「真珠の涙」を演奏するのだが、それを聴きながらまさに「真珠」のような「涙」が頬を伝うクローズアップ、「よっ西河!」と大向こうから声がかかりそうなアイドル映画の職人技、熟達した西河監督の底力を最後に見た。(星3.0)

タイトルとURLをコピーしました