『半七捕物帖 三つの謎』

映画 半七捕物帖 三つの謎 日本映画
画像はイメージ

「江戸の夜の闇」を描く岡本綺堂原作の『半七』
片岡千惠藏、東千代之介、鶴田浩二と役者は揃ったが。。
映像化の果敢なる挑戦と限界

 1960年東映。監督は早撮りで知られた戦前からのベテラン佐々木康。「片岡千惠藏主演の異色捕物シリーズ第1弾。江戸情緒あふれる岡本綺堂の原作に材をとり、東千代之介が初の岡っ引き役を演じるなど多彩な配役で贈る」(映連データベース)
 「半七捕物帖には江戸の夜の暗さが描かれている」とは稀代の名エッセイスト山本夏彦の言。確かに電気の無い江戸時代の夜の闇の深さは現代以上だったであろう。原作小説ではその闇夜が見事に表現され、江戸庶民の日常生活もリアルに活写されている。戦国時代や南北朝時代に比べれば戦乱のない平穏なのどかな時代であったろうが、いつの世も犯罪は起こるものである。原作は半七親分がリタイア後明治中期に岡本少年に昔話を語る体で話が進む。武士階級などの権力者でない江戸の庶民のリアルを書き留めようとした岡本綺堂は民俗学的視点を持った作家のひとりと個人的には見る。
 本作は原作を結構忠実に映像化したようだ。「津の国屋 」「ズウフラ怪談」「異人の首」の3編の連作。原作はすべて短編だが映画化にあたりうまく繋げている。
 小説の「半七捕物帖」は開国後の幕末を舞台にしているので異国情緒豊かな作品が多い。でも派手な立ち回りが無く、基本的に半七は理詰めで下手人を「落とす」ので、映像化となると正直なところ絵柄的には地味。この3編は中でもビジュアル的に見栄えのする作品ではあるが、そうしたこともあり半七は映画・ドラマといった映像には不向きなのであろう、本編も「異色捕物シリーズ」と銘打ちつつ半七第2弾が無いのがその証左。現在に至るまで「半七」の映画化、ドラマ化は小説の知名度に比して数えるほど。捕物帳としてはマイナー。それが今日の原作の評価にも繋がるのであればファンとしては何とも口惜しい限り。
 とは言え見どころはたくさん。まずは片岡千恵蔵。唯一無二のカリスマ性は本作でも健在。「多羅尾伴内」の髷物とも言えなくもないが肩肘張らず純粋に楽しめる。
 千恵蔵の啖呵の切れ味、東千代之介の男振り、東映色に染まる直前の彷徨える優男、鶴田浩二、本作ではいい人の原健策になぜかほっこりしたり、常磐津の師匠文字春(原作では半七の妹。本作では関係性は曖昧)をたおやかに演じる千原しのぶ、渋みを増した徳大寺伸等々「さやとった」「たぐる」等々ほとんど失われた日本(語)情緒に日長夜長浸るのも一趣。
 (星3.5)

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